Project.13
DOCTORAL DISSERTATION
高野山中学校におけるプレイスメイキング型まちづくり学習

Action Research / 2020~2023 / KOYASAN
1. プロジェクトの背景
近年、学校教育では「地域との協働」が重視され、多くの学校で地域課題を扱う学習が行われています。しかし、中学生が考えたアイデアの多くは、安全面や時間の制約から「提案」止まりになってしまい、実際のまちで「実践」されることは稀です。 本研究では、和歌山県高野町にある高野山中学校と連携し、生徒が「提案」から「実践(社会実験)」までを一貫して行う3カ年のプログラムを設計・支援しました。 手法として取り入れたのは、都市デザインの概念である「プレイスメイキング(Placemaking)」。単にハード(建物)を作るのではなく、人の活動や居心地の良さを中心に据えた「場づくり」のアプローチです。
2. 高野山の概要と地域課題
和歌山県高野町は,弘法大師・空海によって開創された高野山金剛峯寺を中心とする仏教都市であり,高野山地区の大部分が金剛峯寺の境内地とされる。まちなかには,真言密教の根本道場である「壇上伽藍」や空海の御廟である「奥之院」,117の塔頭寺院など,貴重な文化資源が数多く残されている。2006年には世界遺産に登録され,年間約120万人の観光客が世界各地から訪れる観光都市でもある。
一方で,町の人口は約2,600人(2025年時点)と減少傾向にあり,15歳未満の人口はおよそ160人にとどまっている。地域の将来を担う人材の定着は,重要な課題となっている。経済面では観光が主要産業であるものの,日帰り客が中心であり,町内に長く滞在してもらう仕組みが十分に整っていない。特に,中心市街地には歩道が整備されていない区間もあり,観光客がゆっくりと滞在・回遊できる空間環境の充実が求められている。また,伝統産業の担い手不足も深刻化しており,地域の文化的・経済的持続性にとって大きな課題となっている。

3. 3年間の実践プロセス:段階的な学びの深化
本プロジェクトの特筆すべき点は、2021年度に入学した1年生(10名)が、3年間かけて段階的に地域への関与を深めていったことです。
■ 1年目:地域の魅力と課題の発見(2021年度)
初年度にあたる2021年度は,3カ年のまちづくり学習の出発点として,生徒が地域の魅力と課題に自ら気づき,地域住民との対話を通じて地域への関心と当事者意識を育むことを目的とした。特に,自らの生活圏である高野山の空間や人々の営みに目を向け,地域を「自分ごと」として捉える視点と言語の獲得を重視した。
授業テーマは「高野町の魅力・課題を見つけて,まちの未来を話し合おう」とし,生徒が対話や調査を通じて「訪れたくなるまち」「歩きたくなるまち」「住みたくなるまち」を構想し,その実現に向けたアイデアを提案することを学習目標とした。
STEP1:地域マップ作成による地域資源の把握(7時間)
まずSTEP1では,生徒が高野山の魅力や課題を地図上に描き込む「イメージマップ」を作成した。当初は通学路中心だったが,文献やWeb検索を通じて視野を広げた。その後,グループ1「訪れたくなるまち」(生徒A,B,C),グループ2「歩きたくなるまち」(生徒D,E,F,G),グループ3「住みたくなるまち」(生徒H,I,J)の3テーマに分かれて高野山の将来像を語り合った。

STEP2:タウンウォッチングによる地域課題の発見(8時間)
STEP 2では,生徒が寺社,商店,公共施設など15カ所を選び訪問した。事前にインタビュー技法を学んだ上で,自らアポイントを取り,地域住民と対話した。当初は質問に悩む様子も見られたが,次第に対話が進み,地域の文化的・人的資源への理解が深まっていった。

STEP3:まちづくり政策の構想と役場職員との意見交換(10時間)
STEP2で得た知見をもとに,各グループは「まちをどう改善できるか」を検討した。町役場職員との議論を経て,グループ1は「まち歩きの仕掛け(スタンプラリーの実施など)による観光促進」,グループ2は「歩道と車道の分離による安全な通学路整備」,グループ3は「空き家活用や子育て支援による移住促進」などの提案を生み出した。

STEP4:タウンミーティングでの政策提言(10時間)
STEP4では,生徒が町長や住民の前で提案を発表した。緊張の中でも自らの言葉で語る姿が見られた。町長からは「宗教都市としての特性を踏まえた計画にしてほしい」とのフィードバックが寄せられたため,生徒らは内容を再検討し,学内発表会用に提案のブラッシュアップを行った。


■ 2年目:地域関係者との対話と提案活動(2022年度)
2年目にあたる2022年度は,地域の魅力と課題を把握した生徒が多様な他者と対話・協働し,より具体的なまちづくり提案へと発展させる段階とした。1年目の関心や知識を基盤に,実現可能な場づくりに取り組むことを目的とした。授業テーマは「高野山の人・もの・空間を活かしたまちの居場所をつくろう」とし,生徒は僧侶や職人,観光・行政関係者と対話を重ね,地域の魅力と課題を再整理し,具体的な居場所づくりを提案した。また,異学年協働に関する先行研究を踏まえ,1〜3年生の混合グループを編成し,学年間を横断した協働活動を導入した。
STEP1:地域資源のデスクリサーチ(17時間)
STEP1では,歴史,文化,暮らし,産業の視点から地域を再認識するマインドマップを作成した。作業の中で伝統産業に関する理解の浅さが浮き彫りとなり,ふるさと読本を活用して知識を補完した。

STEP2:地域ステークホルダーとの交流(16時間)
STEP2では,学年別に異なる地域関係者を訪問した。1年生は和菓子職人や宮大工,2年生(生徒A〜J)は地域資源を活かした新規ビジネスを展開する事業者と対話し,継承と革新のバランスを学んだ。3年生は行政職員や観光事業者からまちづくりの現場の試行錯誤の実態を学んだ。

STEP3:地域課題の特定とプレイスビジョンの立案(6時間)
STEP3では,1〜3年生混合の3グループでプレイスメイキングの提案を協働で構想した。前年の提案を発展させ,地域資源の活用と実現可能性を重視してアイデアを精緻化した。加えて,模型や実物大サンプルの制作で空間やプロダクトのイメージを具体化した。

STEP4:プレイスビジョンの提言(4時間)
STEP4では,金剛峯寺新別殿を会場に,町長,事業者,住民らと意見交換会を実施した。生徒の提案に対して,意見や助言,協力の申し出を得る機会となった。


■ 3年目:地域空間での仮設的な実践(2023年度)
3年目にあたる2023年度は,地域の担い手と協働し,提案を実践に移す段階と位置づけた。地域づくりへの当事者意識と実践力の向上を目的とし,生徒は2年目の提案を具体化する実践に取り組んだ。
授業テーマは「高野山の奥深い魅力を世界に伝えるフードを作って販売しよう」とし,地元の胡麻豆腐店主の協力を得て地域産品を開発し,仮設店舗で販売する社会実験を実施。その成果をもとに地域活性化の提案を行うことを学習目標とした。また,異学年交流を前提としつつ,探究学習の土台づくりが必要と判断した1年生を除き,2・3年生(計18名)を対象に実施した。
STEP1:観光客への街頭インタビュー(3時間)
TEP1では,「高野山でどのような食体験を期待するか」「改善してほしいこと」などの設問を設け,町内で観光客へのインタビューを実施した。調査の結果,「胡麻豆腐や精進料理をカジュアルに楽しみたい」といったニーズが明らかとなり,生徒は地域外の視点から高野山の食文化の可能性を再認識した。

STEP2:社会実験プロジェクトの計画と実行(36時間)
STEP2では,地元の胡麻豆腐店と協働し,新たなスイーツの開発・販売に取り組んだ。生徒は4グループに分かれて商品案を提案し,コンペ形式で「胡麻豆腐パフェ」「胡麻豆腐三色だんご」の2案を選定。その後グループを再編し,「五色幕パフェ注12)」グループ(生徒A,D,E,G,J)と「空海の一生(三色だんご)注12)」グループ(生徒B,C,F,H,I)に分かれ,レシピ作成,試作,パッケージや広報資料のデザインを行った。完成品は参道沿いの胡麻豆腐店前に設置した仮設店舗(大門地区と小田原地区の2ヶ所)で1日限定販売され,生徒が接客とアンケート調査を担当した。観光客や地域住民からは「高野山らしい味」「ユニークな試み」などの声が寄せられた。

STEP3:社会実験の検証・まちづくり政策の立案(6時間)
STEP2で回収したアンケート結果を分析し,生徒は社会実験の成果と課題を整理した。その上で「地域産品開発が伝統産業や観光振興にどう貢献するか」「歩いて楽しめるまちにするには何が必要か」といった視点から,地域資源の活用や若者と事業者との協働体制構築などを含むまちづくり政策を立案した。

STEP4:まちづくり政策の提言・意見交換(5時間)
STEP4では,大師教会中講堂で発表会を開催し,町長,町議,住民ら約60名を前に生徒が社会実験の結果と,それを踏まえたまちづくり政策を発表した。町議からは「議会と生徒が連携できるような取り組みを検討してほしい」との意見もあり,生徒は自らの提案が地域の大人の関心を集め,まちづくりに影響を与え得る可能性があることを実感した。


4. 本取り組みの成果と課題
3年間にわたるまちづくり学習を通じて,生徒らは調査や提案にとどまらず,地域空間に働きかけるプレイスメイキングの実践を行った。生徒らは,都市空間を観察し,必要とされる空間のあり方を構想し,仮設的な空間を設営・運営する中で,「誰のために,どのような空間が必要か」を主体的に考えるようになった。また,住民や観光客との対話を重ねる中で,地域への理解はより具体的なものへと深まっていった。こうした経験を通じて,生徒の学びは地域課題の発見から,実空間を用いた取り組みへと展開された。
本取り組みにおける生徒の学習プロセスを振り返ると,1年次に地域の様々な資源への関心が芽生え,2年次には協働的な実践を通じて創造性と協働性が育まれ,3年次にはそれらを生かして社会に働きかける中で,主体性が高まった。「提案から実践へ」という構成によって,生徒は自分のアイデアや行動が地域に受け入れられうることを実感し,学びに対する意欲や手応えが高まった点も重要である。
また,学びを地域へと広げ,学年や立場を越えた協働の場が生まれた。生徒は宗教・観光・産業など多様な分野に触れ,地域社会の複雑さを体験的に理解した。「中学生がまちづくりのパートナーになり得る」との声も聞かれ,子どもと地域が対等に関わる枠組みが築かれた。
一方で,いくつかの課題も残された。まず,本取り組みは期間限定の活動であり,継続的な地域変化にはつながっていないため,長期的なまちづくりに貢献する仕組みづくりが必要である。また,本稿では学びの成果を質的に記述しているため,今後は定量的な評価指標の導入が求められる。まちづくりと教育の分野をまたぐ実践においては,「成果」の定義と測定方法の明確化が必要である。
さらに,本取り組みは筆者が学校と地域をつなぐ役割を担うことで実現していたが,他地域への展開には,同様の担い手と制度的支援体制の構築が不可欠である。コーディネーターの役割を明確化し,自治体や学校と連携した持続可能なモデルの整備が求められる。
