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Kindai Univ.

Architectural Planning Lab.

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Project.28

Research on
School Facility Planning

新築校舎の未活用空間の活用促進プロジェクト

KOYASAN

Action research / Koya

学校建て替えに伴う教育環境の変化とその受容過程の分析

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研究の背景と目的

近年、少子化や施設の老朽化を背景として、地方の学校統廃合や複合化の動きが加速している。その際、施設の集約と再編を通じて地域資源の有効活用を図りながら、新たな学習環境を創出する試みが各地で進められている。本研究は、和歌山県高野町に2024年に整備・竣工された、こども園・小学校・中学校・公民館を統合した教育複合施設内の中学校(生徒数45名注1))を対象に、教科教室制およびオープンスペースを取り入れた新校舎への移行に伴い、教員と生徒がどのように空間に適応しているかを明らかにすることを目的とする。

PLAN

K中学校新校舎の空間構成と研究方法

複合施設内の中学校エリアは、各学年の「ホームベース」と「教科教室(社会、数学、国語)+メディアコーナー」を並行配置した空間を中心に、「まんなかライブラリー」などのオープンスペースが随所に設けられている(図1)。また、英語、理科、図工、家庭、音楽で使用する教室は小学校との共用となっている。設計者は「生徒の自律性を促し、多様な学びのスタイルに応じた柔軟な空間利用」を意図していたが、教員注1)からは運用上の課題も多く指摘されている。本研究では、授業と休み時間の生徒の行動観察、教員へのインタビュー、生徒へのアンケート、ならびに設計資料の分析を通して受容過程の実態を明らかにする。

MERA

教員の適応行動と運用上の課題

社会科教員は狭い教科教室を補うためオープンスペースを積極的に活用し、生徒同士の学び合いを促進していたが、個別フォローが困難という悩みも抱えていた。一方で、数学科教員は集中しやすい環境を確保するため教科教室の扉を常時閉めた授業を行っており、「メディアコーナーをどう活用すれば良いのかよく分からない」と述べた。英語科教員は、教科の専用教室ができたことで、教材の置きっ放しや掲示が容易になり、授業準備の効率が向上したと評価しているが、隣接する音楽室からの音で、生徒の集中が阻害されると課題を抱えていた。施設運用の面では、小学校との特別教室(理科室・体育館・音楽室など)の共用が時間割調整上の大きな悩みとなっている。特に、理科や音楽のようにホームベースでの実施が困難な授業においては、調整に多大な労力を要しているという。校長もまた、設計段階でのワークショップで求められた空間と、現場の「使いやすさ」との間にギャップがあることに問題意識を持っている。

生徒の適応行動

生徒の行動にも一定の変化が見られた。休み時間の行動観察およびアンケート結果からは、「まんなかライブラリー」が居場所として好まれていることがわかった。特にYogiboに多くの生徒が集まる傾向があり、くつろぎや遊びの場として機能している。ただし、10分間休憩は多くの生徒がホームベースに留まる傾向も見られ、冬季においては寒いため教科教室に閉じこもる様子も見られた。中学生と小学生との交流については、おんぶをして遊ぶといった場面も観察されたが、小学校エリアは可動式什器を使ってテリトリーを区切っているため行き来しづらい状況になっており、交流は限られている。

考察と今後の展望

教科教室制の導入やオープンスペースの配置は、生徒の自律的な学びや協働的な活動を促進することを意図していたが、現実には「時間割調整の難しさ」「音の干渉」「収納不足」「小中学校の交流の難しさ」などの課題が浮上したことにより、設計者の意図と現場の運用にギャップが生じていることが明らかになった。今後は、設計者・運営者・教員と協力して設計者と利用者のズレを解消していくことが求められる。

高野山学びの杜における未活用空間の活用プロジェクト

― 児童・生徒が主体となって考える「書くことで広がる学びの場」づくり ―

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使われない空間から「自分たちの居場所」へ
新校舎の完成から約1年、一部の家具や空間が十分に活用されていないという課題が浮上しました 。この状況に対し、建物の設計を手がけた安井建築設計事務所が、竣工後も施設に関わり続けるという新しいアプローチを提案。利用者である生徒自身が主体となり、空間をより良く変えていくためのワークショップを建築計画研究室と共同で企画しました。

ワークショップのテーマは「学校に自分たちで考えたスペースをつくってみよう!!」。使われていないモノを、使われていない場所に置き、生徒が自分たちの居場所を作るという内容です 。この活動の主役は、小学5年生から中学2年生の生徒たちで、自分たちが作った空間を卒業まで使い続ける「当事者」として、プロジェクトへの主体的な関与が期待される学年を選びました。生徒たちは、使われていなかった家具を自由に使い、校内の未利用空間を、読書や交流が生まれる新しい学びの場へと変えていきます。  

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生徒が主役のプロセス

ワークショップは、生徒がデザインのプロセスを体験的に学べるよう、3つのステップで構成しています。このプロセスを通じて、生徒は単なる空間の「利用者」から、自らの手で環境を創造する「作り手」へと成長することが期待されます。 

STEP1 アイデア出し:設計者から建物のコンセプトを聞いた後、チームに分かれて改善したい場所を選び、「どんな場所にしたいか」というコンセプトを話し合います。

STEP2 試作:考えたアイデアを元に、実際に家具、本などを配置。アイデアを物理的に形にしながら、より良い空間のあり方を試行錯誤します。

STEP3 評価:各チームの取り組みを振り返り、どのアイデアが最も優れているかを、生徒と教員の投票によって決定します。

 

説明会(2025.9.12)

説明会では、設計者から「みんなでつくる学びの杜」という設計理念が紹介され、施設が「開く」「交わる」などといったテーマを軸に計画されたことが説明されました。児童・生徒は、建物の意図や空間構成を理解することで、これから自分たちが関わるプロジェクトの背景を学びました。

 

第1回ワークショップ(2025.10.14)

第1回ワークショップでは、参加者の小学生2名を対象に「好きな場所」「あまり好きでない場所」について意見交換を行い、児童が日常的にどのように学校空間を感じているかを探りました。「にぎやかな学校にしたい」「第階段の黒板にチョークがあれば使いたい」などの声があがり、学校内の観察を通じて普段使われていない場所への関心も高まりました。意見整理の結果、「書くこと」を中心とした空間改善の方向性が見えてきました。ロータリーのコンクリート壁面や地面などに自由に絵やメッセージを描くことで、創造性と学びがつながる場をつくる構想が生まれました。

 

今後の展開

10月下旬から12月にかけて、第2回〜第4回のワークショップが予定されており、アイデアの具体化、デザイン案の検討、実装へと進む予定です。

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