Project.24
Research on
Sustainable Railway Stations
持続可能な鉄道駅のあり方に関する研究

Research / Japan / 2024~
2024年から、ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社との共同研究として「持続可能な鉄道駅のあり方に関する研究」に取り組んでいます。本研究は、地方都市における無人駅の増加に伴い、駅をまちづくりの一環として活用する新たな方法や価値を明らかにすることを大きな目的としており、北海道から九州まで全国津々浦々に点在する無人駅をはじめとする地方駅の利用事例を調査しています。

ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社「さこすて®︎」について
ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社の「さこすて®」は、駅を交通の場から地域の交流拠点へと再定義し、地域と共に持続可能な駅づくりを推進するプロジェクトです。具体的には、駅を活用したい人や企業と駅を結びつけ、共に持続可能な事業を創出し、調査や研究を通じてノウハウを構築しています。例えば、奈良県桜井市の三輪駅では、地域住民と協力して駅を地域の交流拠点として活性化させる取り組みが進められています。
東北地方

JR東日本只見線 会津柳津駅:情報発信交流施設「あいべこ」+張り子工房「Hitarito」
昭和初期築の木造駅舎を柳津町が改修し、2024年に情報発信交流施設「あいべこ」として再生。古い構造材を活かしてレトロな趣を残しつつ温かみのある空間へとリニューアルされ、駅舎内には赤べこ張り子工房「Hitarito」と観光案内所・売店が併設されています。地元職人と観光協会が運営する工房では赤べこの絵付け体験も可能で、地域伝統工芸と観光サービスが融合した交流拠点となっています。

JR東日本常磐線 小高駅:醸造所とマーケット「haccoba」(福島県南相馬市)
2020年の無人化後、旧駅事務室と宿直室を地元クラフト酒蔵「haccoba -Craft Sake Brewery-」がリノベーションし、2024年2月にショップ兼醸造所「haccoba 小高駅舎醸造所&PUBLIC MARKET」が誕生。醸造所ではクラフト日本酒やノンアル飲料の仕込みを行い、ショップでは酒類や県内外のセレクト食品を販売しています。待合スペースを兼ねた店内は自由に過ごせる交流空間となっており、通学中の高校生を見守りつつ地域住民や鉄道利用者が気軽に立ち寄れる場として機能しています。

JR東日本只見線 七日町駅:会津17市町村のアンテナショップ「駅カフェ」(福島県会津若松市)
2002年に駅舎を改装して生まれ変わった「駅カフェ」は、会津17市町村のアンテナショップ兼カフェです。NPO法人会津地域連携センターが運営主体となり、100年前の木造駅舎を活かしたレトロな空間に、コーヒーやフルーツジュースが楽しめる喫茶コーナーと特産品売場、観光インフォメーションが併設されています。扱う商品は全て会津地域産で、電車待ちの乗客から地元住民まで誰もが立ち寄り情報交換できる憩いの場として親しまれ、地域連携の拠点ともなっています。

山形鉄道フラワー長井線 長井駅:駅舎と市役所を合築(山形県長井市)
「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」の理念のもと、老朽化した駅舎と市役所を一体化した全国初の駅併設庁舎が2021年に完成しました。延長約170mに及ぶ新庁舎は長井市が建設・運営し、1階に公共交通の結節点となる駅機能と市民交流施設を備えています。木の温もりある空間デザインで市民が集いやすく、公共施設や商業エリアともネットワーク化された造りとなっており、鉄道駅が行政サービスと地域交流を支えるハブとして持続可能なまちづくりに貢献しています。
関東地方

JR東日本青梅線 鳩ノ巣駅:分散型ホテルのフロント「沿線まるごとラボ」(東京都奥多摩町)
奥多摩の無人駅・鳩ノ巣駅は、沿線集落全体を一つのホテルに見立てる取組み「沿線まるごとホテル」のフロントとして活用されています。2022年、駅舎を改修して中に「沿線まるごとラボ」が開設され、暖簾をくぐるとそこがホテルのロビーという趣向です。地域の受入スタッフが出迎えし、チェックイン手続きを行った後、周辺の古民家客室へ案内される仕組みで、駅舎が分散型ホテルの玄関口となりました。JR東日本と地域創生企業が共同で進めるこのプロジェクトは、空き家活用と観光振興を両立し、鉄道を核とした新しい旅の形を地域と共創しています。

JR東日本上越線 後閑駅:駅ナカ学習室「みんなの放課後ターミナル」(群馬県みなかみ町)
無人駅舎の一角を改装して2021年に開設された「後閑駅ナカ学習室~みんなの放課後ターミナル~」は、町内の高校生が無料で利用できる自習スペースです。みなかみ町と地域おこし協力隊が協働で運営し、放課後の生徒たちが電車や迎えの待ち時間に集中して勉強できるよう、自習ブースや参考書コーナー、Wi-Fi完備の設備が整えられています。常駐スタッフが進路相談に乗ったり、地域の大人と交流するイベントも開催され、駅が地域ぐるみで若者を育む「放課後の居場所」となっています。地域の子ども110番の家にも登録されるなど、安全・安心なコミュニティ拠点としての役割も果たしています。
東海地方

伊豆急行伊豆急行線 蓮台寺駅:カフェ「NEED U」(静岡県下田市)
2022年9月、伊豆急行が地元のオーガニック食品ブランド「NEED U」と協働し、無人駅だった蓮台寺駅の駅務室を改装したカフェスタンド「NEED U 蓮台寺駅店」をオープン。東京からUターンしたオーナーが下田で創業したNEED U社が直営し、自家焙煎コーヒーやジェラートなどの軽飲食、そしてオーガニック調味料や加工食品を販売しています。駅舎の一部を活用した店内は小規模ながら心地よく、通勤通学客や観光客が電車待ちの合間に立ち寄れる憩いの場となりました。地域の新たなモデルケースとして鉄道会社と地元企業が連携し、無人駅に地元発ブランドのカフェを誘致することで駅に賑わいと雇用を生み出しています。

天竜浜名湖鉄道 天竜浜名湖線 各駅(静岡県)
三セク化した天浜線沿線では、各無人駅舎へのテナント誘致による活性化が進んでいます。ハンバーガーショップ(三ケ日駅)、ベーカリー(都筑駅)、喫茶店(浜名湖佐久米駅)、洋菓子店(西気賀駅)、ラーメン屋(気賀駅)、カフェ(都田駅)、ピッツァ工房(金指駅)、ゲストハウス(二俣本町駅)、蕎麦屋(遠江一宮駅)など多彩なローカル店舗が駅舎内で営業しており、路線全体で地域住民と観光客に親しまれる「駅ナカ商店街」を形成しています。老朽木造駅舎の温もりを生かした空間に個性豊かな店主たちが集い、鉄道利用者はもちろん車で巡る人々も目的地として駅に立ち寄る流れが生まれました。鉄道会社と地元事業者の連携により、鉄道の旅の魅力向上と地域経済の循環が図られた成功事例と言えます。

大井川鐵道 大井川本線 各駅:芸術祭「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」(静岡県島田市・川根本町)
大井川流域では「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川」と題した現代アートの試みが行われています。2018年の初開催以来、特定非営利活動法人クロスメディアしまだが主体となり、無人駅や使われなくなった駅施設を舞台にアーティストが地域資源や人々の魅力を表現する芸術祭を継続開催。過疎化が進む土地の象徴としての「無人駅」に着目し、アートを手法に地域再生を図る取り組みで、年々来訪者を増やしています。2024年には流域全体を巻き込むプロジェクトへ発展し、無人駅という日常空間が地域内外の人々をつなぐ創造的な場へと生まれ変わっています。鉄道遺産の保存と活用を両立させたこの芸術祭は、地域住民にも誇りをもたらし、地方鉄道の新たな価値創出モデルとして注目されています。
近畿地方

JR西日本紀勢本線 湯浅駅:飲食&物販店「湯浅米醤」+公共施設「湯浅えき蔵」(和歌山県湯浅町)
駅舎の老朽化に伴い、2019年にJR湯浅駅の機能を隣接地の新施設「湯浅えき蔵」へ移転し、100年近い歴史を持つ旧駅舎は町が保存・改修して2023年5月に観光交流施設として復活オープンしました。旧駅舎内には地元醤油文化を発信する飲食物販店「湯浅米醤」が入り、薪かまどで炊いたご飯のおむすび定食や醤油を使った団子・甘味など多彩な郷土グルメを提供しています。駅舎にはレトロな窓枠や照明、ベンチがしつらえられ、大正期創建時の趣きを色濃く残す空間で食事や休憩が楽しめます。また新駅舎「えき蔵」には図書館や会議室等の公共機能が備わり、交通結節点と公共サービスが一体となったコンパクトなまちの拠点づくりが実現しました。

JR西日本紀勢本線 見老津駅:カフェ「pìccolo grocery store」(和歌山県すさみ町)
昭和初期築の木造駅舎を改装し、2024年11月にカフェ併設のグローサリーストア「pìccolo grocery store」がオープンしました。地域外から移住したご夫婦が駅舎カフェの店主となり、地元食材を使った手作りサンドイッチやバナナブレッドなどを提供しています。利用客1日10人ほどという過疎の無人駅に賑わいを取り戻したいとの思いから、JR西日本とすさみ町観光協会が共同支援し実現したプロジェクトであり、週末を中心に鉄道ファンやカフェ目当ての観光客も訪れるスポットになっています。雄大な太平洋を望むホームを眺めながら過ごせる開放的な空間は、「秘境駅」での非日常体験と地域住民の交流の場を両立する試みとして注目されています。

JR西日本紀勢本線 紀伊宮原駅・箕島駅・初島駅:「きのくに線駅マルシェ」(和歌山県有田市)
有田市と商工会議所が主催する「きのくに線駅マルシェ」は、これら3駅を舞台に沿線を巡って楽しむ移動型マルシェイベントです。2023年から毎年5月に開催され、各駅に地元飲食店や雑貨店など30~40店舗が集結し、フードホール(初島駅)、駅前バル(箕島駅)、カフェ&雑貨市(紀伊宮原駅)と駅ごとに趣向を凝らしたエリアが設けられます。参加者は列車に乗って駅間を移動しながら買い物やグルメを満喫でき、電車に乗ること自体がイベントの一部になっています。普段は閑散としがちな駅前が家族連れや観光客で賑わい、鉄道利用促進と地域商業の活性化に寄与する取り組みとして好評です。
中国・四国地方

JR四国予讃線 卯之町駅:駅改築+公共施設「西予市 卯之町駅前複合施設 ゆるりあん」新築(愛媛県西予市)
2021年、卯之町駅は駅舎を全面改築し、市役所支所や観光交流機能を備えた「卯之町駅前複合施設 ゆるりあん」として生まれ変わりました。民間資金を活用したPFI手法で整備された新駅舎は、自由通路や郵便局、飲食店、多目的ホール等も併設する木造平屋建てで、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された卯之町の町並みに調和するデザインとなっています。地元産の木材を随所に用い、待合ロビーは誰でも立ち寄れるフリースペースとして開放され、地域の「まちの居間」として機能しています。JR四国と西予市、地域住民が協働して進めた本プロジェクトは、駅そのものを生活サービスと観光の結節点に位置付け、「駅を中心とした徒歩圏で新たな体験ができる街づくり」を目指す試みです。

JR西日本山陰本線 三見駅:移住体験施設「#さんちゃんち」(山口県萩市)
大正時代築の木造駅舎を萩市が改修し、2023年3月にお試し暮らし住宅「#さんちゃんち」としてオープンしました。駅舎内にキッチン・バス付きの滞在スペースを整備し、移住希望者やテレワーカーが最長1週間ほど宿泊できるようになっています。地元の移住支援員や地域住民と交流しながら田舎暮らしを体験できる施設で、利用予約開始以来、多くの希望者が訪れています。地域おこし協力隊の発案と市の支援で実現したこの「駅舎リノベ宿泊所」は、普段は無人の駅に人の賑わいと灯りを取り戻し、地方鉄道の駅を地域定住促進に役立てる先駆的事例となっています。
九州地方

JR九州鹿児島本線 荒尾駅:カフェ、お土産ショップ「あらおリビング」(熊本県荒尾市)
2024年11月、JR荒尾駅の旧事務室をリノベーションした無料コミュニティスペース「あらおリビング」がオープンしました。JR九州と地元住民が共同で取り組む駅活性化事業で、壁面を塗り替え、荒尾特産の梨の廃材から作った円形ベンチを設置するなど、手作り感あふれる約40㎡の空間に生まれ変わっています。朝7時半から夜8時まで誰でも利用でき、待合室としてはもちろん、セルフで淹れられるコーヒーの提供や地域情報コーナーも備えています。かつて閑散としていた無人駅が、人々が集い交流する「まちのリビング」となり、鉄道利用者へのサービス向上と地域の憩い場創出を両立させています。

JR九州久大本線 筑後吉井駅:カフェ「ZelkovaCoffeeえき」(福岡県うきは市)
白壁の伝建地区に近い筑後吉井駅は、1928年開業の趣ある木造駅舎です。その旧事務室スペースに地元の自家焙煎珈琲店が出店し、2024年11月にカフェ「Zelkova Coffee えき」がオープンしました。人気店「Zelkova Coffee」を営む田中さんがJR九州の呼びかけに応じて開いた2号店で、「駅(えき)」という言葉に“液・易・益”など多様な意味を重ね、「コーヒーを通じてローカルから世界へ益をもたらしたい」との想いが込められています。無人駅だった空間がコーヒーの良い香りに満たされ、人々が気軽に立ち寄れる場所へと生まれ変わったことで、日常にちょっとした幸せと地域への誇りをもたらす存在となっています。

JR九州久大本線 田主丸駅:カフェ「KAPATERIA」(福岡県久留米市)
JRから譲り受けた古い木造駅舎をリニューアルし、久留米市が「田主丸ふるさと会館」として管理運営しています。館内の駅舎カフェ「KAPATERIA(カパテリア)」では、地元の人気飲食店が協力して開発したホットドッグセットやスパイスカレー、季節のスイーツなどを提供し、食材も可能な限り田主丸産を使用しています。カフェは夜21時まで営業しており、地元ワイナリーや酒蔵の銘酒も楽しめる憩いの場です。また2階席は学生向けの学習スペースとして無料開放されており、冷暖房完備の快適な環境で勉強やテレワークが可能です。地域住民の意見を反映して整備されたコミュニティカフェは、鉄道利用者だけでなく地域の子育て世代や学生にも優しい設計となっており、無人駅舎の有効活用と地域サービス向上を両立させた好例となっています。

JR九州久大本線 南久留米駅:レンタルキッチン「Share Kitchen Minamikurume」(福岡県久留米市)
乗降客の少ない無人駅・南久留米駅で、駅事務室(約10坪)のシェアキッチン「Share Kitchen Minamikurume」プロジェクトが2024年12月に始動しました。JR九州の駅活性化チームが発案し、曜日ごとに異なる人気飲食店が交替で出店する方式を採用。初期投資や集客の不安をシェアリングで解消する狙いで、フレンチレストランやカフェなど行列必至の有名店が敢えてこの小さな無人駅に参画し、日替わりで多彩なグルメを提供しています。久留米大学の学生チームも企画段階から関わり、駅でのイベント運営や装飾(竹灯籠の設置など)を協力。96年前の開業日と同じ日に産声を上げた南久留米駅のシェアキッチンは、学生・事業者・鉄道会社が三位一体となって無人駅に新たな賑わいと交流を創出する先進事例です。

JR九州大村線 千綿駅:花屋「ミドリブ」(長崎県東彼杵町)
大村湾を望む風光明媚な千綿駅では、2022年より小さな花屋「ミドリブ」が駅員室跡にオープンしています。地元出身の3名のメンバーが「緑の部活動」のように楽しく運営する風変わりな花屋で、季節の生花やドライフラワー、リースなどを販売。町内に図書館も本屋もない中、「花と本が人と地域をつなぐ場を」との思いで開店し、地域の文化拠点づくりにも寄与しています。東彼杵町のふるさと納税返礼品にもミドリブの花束が採用されるなど行政の支援も受けつつ、無人駅が花と笑顔にあふれる憩いのスポットへと生まれ変わりました。

南阿蘇鉄道高森線 長陽駅:カフェ「久永屋」(熊本県南阿蘇村)
高原リゾートの玄関口・長陽駅では、駅長を務める久永操さんが2006年に駅舎内に開いたカフェ「久永屋」が地域に定着しています。幼い頃からお菓子作りが大好きだった久永さんは、「多くの人に自慢の味を届けたい」との思いで駅構内にカフェを開業。手作りのシフォンケーキやマフィン、蕎麦・うどん定食までメニューは幅広く、素材も阿蘇産にこだわっています。営業は土日祝のみですが、平日は駅管理業務の傍ら高齢者施設へのケーキ出張販売も行うなど精力的に活動中です。ホームのベンチがテラス席代わりになるユニークなスタイルで、列車を待つ乗客も観光客も名物スイーツを堪能でき、地域住民と鉄道ファンに愛される存在となっています。地域有志と協力して築いたこの駅舎カフェは、震災からの復興を遂げた南阿蘇鉄道における交流拠点の一つとして、これからも「駅の顔」として駅舎に明かりを灯し続けます。

南阿蘇鉄道高森線 南阿蘇水の生まれる里白水高原駅:本屋「ひなた文庫」(熊本県南阿蘇村)
日本一長い駅名を持つこの無人駅には、2015年から週末だけ現れる小さな古本屋「ひなた文庫」があります。図書館も書店も無い地域に本文化を根付かせたいと、景観に魅了されたご夫婦が駅舎を借りて開業した古本屋で、毎週金・土曜の11時~15時30分に営業。木造駅舎の窓越しに広がる雄大な阿蘇の自然を眺めつつ、自由に古書を手に取れる空間は「心の深呼吸ができる場所」として訪れる人に安らぎを与えています。店内はインターネット配信「日南テレビ!」の公開スタジオも兼ねており、イベント時には子ども向け読み聞かせや地元作家のトークショーが開かれることも。鉄道ファンから家族連れまでが集う交流拠点となり、無人駅の新しい可能性を示すものとして全国から注目されています。

高千穂あまてらす鉄道:廃線施設を活用した「グランド・スーパーカート」(宮崎県高千穂町)
2008年廃線となった高千穂鉄道の鉄路を活用し、NPOから発展した第三セクター高千穂あまてらす鉄道が観光アトラクション運営に挑戦しています。2017年より全長5.1kmの保存区間で運行開始した定員60名の「グランド・スーパーカート」は、鉄橋日本一の高さ105mを誇る高千穂橋梁上からの絶景スリルが人気を博し、今や年間乗車11万人超えの大ヒットコンテンツに成長しました。エンジン音を響かせながら渓谷上を疾走する特殊カート体験は国内外のメディアでも話題となり、地域経済への波及効果も大きいです。廃線遺構の新たな活用法として「乗りたい鉄道ランキング」の上位常連となるなど、高千穂の神話と絶景を融合させた地方創生モデルケースとして世界から注目されています。

JR九州日豊本線 霧島神宮駅:駅とその周辺地域のリニューアルプロジェクト「光来」(鹿児島県霧島市)
霧島神宮駅のリニューアルプロジェクト「光来」は、鹿児島県を拠点とする建築デザイン会社IFOO(JR九州「DREAM STATION にぎわいパートナー」認定)が主体となって推進する、駅と周辺地域の賑わい創出を目指した民間主導の取組みです。駅舎は建築家・川口琢磨の設計により鹿児島県産杉材をほぼ100%使用した空間へと生まれ変わり、高さ4mの御神木を模した巨大木柱「御神柱」を中心に格子状の木架構が広がる荘厳な内装が特徴で、国宝・霧島神宮の玄関口にふさわしい風格を備えています。また、駅構内には地元の食文化や手仕事に親しめるガレット店や物販・ワークショップスペースが併設され、隣接する歴史的石蔵も飲食店やギャラリーに改装されるなど、地域資源の活用と交流促進が図られています。こうした地域と連携した駅づくりを通じ、霧島神宮駅は単なる経由地から地域の日常と観光を結ぶ交流拠点へと生まれ変わりつつあります。

JR九州長崎本線 長与駅:カフェ・ショップ「GOOOOOOOD STATION」(長崎県長与町)
2023年9月、無人駅化された長与駅構内にカフェ&ショップ「GOOOOOOOD STATION」がオープンしました。運営は社会福祉法人ながよ光彩会で、年齢や障がい・国籍を問わず誰もが過ごせるインクルーシブな場づくりをコンセプトとしています。スタッフは駅係員を兼ねており、切符回収や清掃、車椅子利用者の乗降サポートなどJRから委託された業務も担いながら、香り高い自家焙煎コーヒーの提供や雑貨販売、地域情報発信を行っています。電車を待つ人もコーヒー好きもふらっと立ち寄れる居心地の良い空間で、無人駅特有の「困りごと」を解決するとともに、福祉と地域交流の拠点として駅が再定義された好例です。

JR九州長崎本線 肥前浜駅:日本酒バー「HAMA BAR」(佐賀県鹿島市)
2021年1月、日本初となる駅ホーム直結の日本酒バー「HAMA BAR」が肥前浜駅舎内にオープンしました。江戸期からの酒蔵群で知られる鹿島・浜町の有志が企画・運営し、改札横の窓越しに列車を眺めながら地元の銘酒飲み比べが楽しめるユニークな空間です。昼は観光列車の乗客が降り立って利き酒セットを堪能し、夜の部(金~日曜)には地元の常連客が集う交流の場にもなっています。駅舎は大正ロマン漂うレトロな造りで、観光シーズンにはライトアップイベントも開催。廃止危機にあった駅が地域資源を活かした日本酒バーによって再生し、鉄道+酒蔵ツーリズムの拠点として全国の酒好き・鉄道ファンを惹きつける存在となりました。

JR九州日南線 日南駅:「日南駅コミュニティスペース」(宮崎県日南市)
2020年3月、日南駅は駅舎リニューアルに合わせて市民が自由に利用できるコミュニティスペース「日南スペース」を開設しました。外観・内装には地元特産の飫肥杉をふんだんに使用し、冷暖房完備の広々とした空間にはカウンター席やテーブル席を配置、学生が待ち時間に勉強できる学習コーナーや、小さな子ども連れに配慮した小上がりの和室エリアも設けられています。企画段階から地域住民や高校生とのワークショップを重ね、ニーズを反映した設計となっており、無印良品など民間企業も家具提供などで協力しました。誰でも立ち寄れる開放的なリビングのような駅舎は「待つための駅」から「行きたくなる駅」へと駅の価値観を転換し、まちの中心拠点として賑わい創出に成功しています。

JR日豊本線 財部駅:定食屋「桂庵」(鹿児島県曽於市)
宮崎県境に近い財部駅には、開業から約30年にわたり駅舎で営業を続ける定食処「桂庵」があります。地元出身の親子が営む食堂で、名物は山盛りの唐揚げや天ぷらが付いたボリューム満点の定食類。その量の多さはテレビ番組でも紹介され、県内外から大食い自慢が訪れるほどです。JR九州から駅舎の一部を借り受けて営業しており、駅舎改札に併設された店内は常連客や列車待ちの旅人で賑わいます。リーズナブルな価格も手伝って地域住民に愛され、結果として無人駅だった財部駅に人の流れを生み出す役割も果たしています。
産学連携授業


2024年度の建築計画総論では、JR万葉まほろば線・三輪駅をテーマに、講義で学んだ知識を活かして無人駅舎活用の企画・計画提案に取り組む演習課題を設定しました。270件を超える学生たちの提案の中から優秀10提案を選出し 、選ばれた学生たちが講義内でプレゼンテーションを行いました。その中から最優秀提案を1点選び、さこすて®︎さんより賞状と副賞が授与されました。当日はさこすて® COO(建築設計本部長)の出井さま、およびさこすて® チーフプロデューサー(建築設計本部係長)の武部さまにご参加いただき、貴重なご講評をいただきました。